4/21、22に行われた「更年期と加齢のヘルスケア学会 北海道支部勉強会」ではやしたくみ女性クリニック 林巧院長のご講演「安全、安心なホルモン補充療法を目指して」を拝聴しました。
ホルモン補充療法(HRT)とは
女性は閉経後急激に女性ホルモン(エストロゲン)が低下し、60歳を過ぎる頃にはその値は男性のエストロゲン値を下回るようになります(→こちら)
男性が一生涯持っているエストロゲン値(20〜50pg/ml)まで回復させるのがホルモン補充療法(HRT)です。
治療(投与)方法は数種類あり、更年期症状治療のための数ヶ月のみ、6ヶ月以上使用する場合、子宮全摘の手術を受け子宮がない方、閉経後すぐかしばらく経ってるか、などでいくつかのパターンがあります。
短期間の治療や子宮のない方にはエストロゲンだけの投与もありますが、通常エストロゲンで子宮内膜が厚くなるのを防ぐため黄体ホルモンと併用する必要があります。
HRTの効果
HRTに期待される作用や効果としては
- 更年期障害(ホットフラッシュ、寝汗、不眠、記憶力低下、精神症状、膣乾燥感、関節痛、四肢痛など)の緩和
- 骨(骨折予防、関節保護、運動機能・姿勢バランスの改善)
- 脂質代謝(LDLコレステロールの低下、HDLコレステロールの上昇など)
- 糖代謝(インスリン抵抗性の改善)
- 循環器(血管のしなやかさを保ち、血圧を変動させない)
- 中枢神経(アルツハイマー病発祥のリスク低下の可能性、更年期の抑うつ気分の改善)
- 皮膚(コラーゲン量増加、キメを整える、弾力性の改善)
- 泌尿器/生殖器への効果
- 悪性腫瘍(大腸がん・胃がん・食道がんリスクの低下)
- 歯科口腔系(口腔乾燥感改善、歯周疾患等の予防、改善)
などがあげられます。
HRTに予想される有害事象
不正性器出血、乳房痛、偏頭痛などの有害事象はエストロゲン量を調節する、黄体ホルモンを変更する、投与法を飲み薬から貼り薬に変えるなどで改善することが可能です。
考えられる動脈硬化や冠動脈疾患はHRTを始める時期で出現率が変わってくるため、なるべく早く開始するのが良いと考えられます。
一時期騒がれた乳がんリスクは「HRTの影響は小さい」とされ、そのリスクもHRTを中止することで低下します。
アルコール摂取や肥満、喫煙のリスクと同等、あるいはHRTの方が低いと結論づけられています。
これからのHRT
新しいガイドラインでは子宮頸がんや内膜がん、卵巣がんなどの治療後に対してもHRT推奨となりました。
子宮内膜症がある人は、再び症状が現れることも考えられるため慎重に行う必要はあるようです。
更年期症状がない場合でも明確な目的(アンチエイジングなど)があり、先生としっかり話し合うことが前提でHRTを行うことは可能となりました。また、投与期間に原則的に制約はなくなりました。
HRTを的確に行う事で女性の健康寿命と平均寿命の差を埋める事が可能となるでしょう。
ただし治療に際しては主治医としっかりした話し合いを持ち、その目的や持病との関係性の確認したり(慎重治療や使ってはいけない病気があります)、有害事象を回避するためにエストロゲンと黄体ホルモン製剤、用量、投与法の選択などもきちんと行う事が大前提と考えます。