エクオールの乳がん抑制作用に関する文献的考察

一昨年10月「更年期と加齢のヘルスケア学会」で発表した内容がようやく活字となりました。
中身を簡単にお伝えします。

日本人の乳がん

30〜60歳代の日本女性がかかる癌のトップは乳がんです。50年前は50人に一人でしたが現在は12人に一人。

食生活の欧米化とともに増加していると言われています。

30代後半から急激に増加し40代後半でピーク、さらに閉経後の60代前半でも再ピークがある事をご存知でしょうか。

乳がんの危険因子としては家族に乳がんになった事がある人がいる、飲酒量が多い、喫煙、肥満などが有ります。

また現代女性は昔に比べ出産や授乳回数が少ない、初潮年齢が早い、閉経年齢が遅い、初産年齢が30歳以上であるなども乳がんリスクを高めると言われており、これは乳がん発生と進行の原因の一つにエストロゲンが考えられるためです(乳がんの約70%はエストロゲンによって増殖するタイプです)。

閉経後の女性に増加するのは、乳がん組織中で男性ホルモンからエストロゲンを作り出しているためであり、閉経によりエストロゲンの血中濃度が少なくても乳がんになる可能性があるのです。

昔の日本女性に乳がんが少なかったのは

食生活の欧米化=昔ながらの食事が少なくなっている、という事ですよね。

以前の日本人の食事といえば味噌汁、納豆など大豆製品を豊富に摂っていました。

現に1990年代、がん患者が多かったアメリカがどうにかしようと研究を進め日本人の乳がん・前立腺がん、骨粗鬆症の低さに注目した結果、大豆製品が有効であるという結論を出しました。

アジア圏の女性を対象にした多くの研究では「大豆製品摂取により乳がんリスク低下の可能性がある」との結果がみられ、日本の研究機関でも2014年に「日本人において」大豆摂取による乳がん予防の可能性が示唆されました。

しかし、欧米女性に関してはこのようなデータが得られなかったのです。

地域差があるのは何故?

これはおそらく腸内細菌による代謝物の違いではないか。

ここで注目がエクオールの産生者の分布です。

アジア圏では約50%がエクオールを体内で作れるのに対し欧米では約20〜30%。日本人でも若い世代は欧米人並です。

研究結果と産生者分布がリンクする事から、乳がんリスクの低下に関わっているのは大豆製品の中でも「エクオール」なのではないか?と考えた訳です。

エクオールの抗エストロゲン作用

エクオールはエストロゲンが少ない状態(更年期女性など)ではエストロゲンが働く場所(受容体)にはまり込み、弱いながらもエストロゲンと同じような働きをする事で更年期症状などを軽減していきます。

反対にエストロゲンが過剰にあるところでは椅子取りゲームのように先回りをしエストロゲンの働きを弱めるようにも働きます。

閉経後の女性に見られるように乳房で過剰に作られるエストロゲンに対してその力をブロック。

さらにエクオールがくっつきやすいエストロゲンβ受容体は乳がんに対し細胞増殖抑制に働くという事が知られています。

これが「大豆製品摂取により乳がんリスク低下の可能性がある」の仕組みなのではないか、と様々な文献から考えたのが今回の論文です。

 

あくまで「乳房に多くのエストロゲンが存在する時エクオールはその作用を抑え、乳がんのリスクを下げる」という事で「エクオールが乳がんを予防する」とは考えないでくださいね。誤解の無いように。