オンラインで行われた「更年期と加齢のヘルスケア学会 学術集中講座」から日本メディカルトレーニングセンター リソルクリニック稲次潤子先生の講義です。
健康寿命を損ねる中高年の運動不足
「ヒトの身体は本来動かすために作られている。そしてヒトは生きるために身体を動かし続けながら進化して来た」と稲次先生。
「今その活動は多くの機械で代行する様になり、さらに新型コロナウイルスの影響で一層運動不足となり、必要最低限の動作だけでも生きていけるのでは?と思ってしまいかねない環境におかれている」
恐ろしい事に、私達の筋肉は『生きていくために(立つために)必要』な筋群から減って行きます。
つまり果たすべき役割が終わったと考え急速に衰えて行く、と言う訳です。
日本人の座位時間は世界最長です。座りっぱなしの生活は人間の歴史の中に想定はされていません。
身体活動=運動と生活活動
筋肉はエネルギーコストが大きいので、日常生活での稼働率が低下した筋肉は切り捨てて省エネします。
「日常よく使うことが「当たり前」の刺激。それまでよく使用されていた筋肉が年齢とともに使用頻度が落ちて使われなくなった途端、それが「不要」のサインとなる」と稲次先生。
便利になって生活活動自体も減っている私達。それは病気にも繋がります。
2019年に出された脳心血管病リスク管理チャートでも
- 中等度以上の強度の有酸素運動を中心に、定期的に行う
- 日常生活の中で座位行動を減らし、少しでも活動的な生活を送るようにする
- 有酸素運動の他にレジスタンス運動や柔軟運動も実践することが望ましい
と有ります。「ただし現在の身体活動量・強度・運動習慣を確認して運動習慣がないものには、軽い運動や短時間運動から実践するように」とあります。
運動習慣がない人に急激な運動は禁物です。まずは生活活動をあげることから始めましょう。
脂肪を減らす・筋肉を減らさない
40歳を超えた女性に重要なのは「体型維持」=筋肉を減らさず、脂肪を減らす。
筋肉には速筋(白)と遅筋(赤)がある事はご存知かもしれませんが、名前の通りゆっくり聞いてくる遅筋は脂肪を使用して働きます。つまり脂肪を減らすには有酸素運動が必要。
そして筋肉を減らさないためには、筋肉に刺激をかける事が必要。10〜15回の反復を1〜3セット。
もっと頑張らないと運動効果は得られない。そしてついた筋肉もやめれば元に戻る。繰り返しが大事です。
いろんな運動を
運動強度を表す「メッツ」
18歳〜64歳までの人は3メッツ以上の身体活動を、週あたり23メッツ必要となってます。
運動はほぼ3メッツ以上。(残念ながらストレッチやヨガは3メッツ以下ですが気持ちを和らげるという点で重要ですね)
そして階段を20分上り下りで3メッツ、雪かき10分で6メッツなど日常生活活動も案外メッツ数が多いようです。
このように自重負荷運動によってもメンテナンスは可能。
「筋肉のメンテナンスだけを考えるのであれば高強度のレジスタンス運動は不要」と稲次先生。
体重移動動作を伴う日常生活動作で十分であるため、日常生活を活発化すれば良いだけです。
ただしこれは低体力者に限られ、また強度をカバーするには時間をかけなければなりません。
運動習慣が有る人は次のことを注意しましょう。
- 運動種目を増やし、スポーツ継続のための基礎体力を作る
- 同じ運動(動作)ばかり続けない。使う部位、強度を帰る
- 競技志向から楽しむスポーツに切り替える
- 体力や健康に過大の自信を持たない
- 体力チェックやメディカルチェックを受け弱点を知っておく
運動を始めるときに
ではこれから始めようとする人は。
- 早い方が良いが遅すぎる事もない。とにかく始める
- まずは身体を動かすことに慣れる
- 目標は早くて3ヶ月、1年後を思い描いて
- 義務感は不要。100%できなくて構わない
- 最重要課題は「長続き」
そしてご高齢の場合は有酸素運動を有効にするための安全確保も忘れずに。
椅子や壁を使って行う事も大事です。
さて、平均寿命はどんなに伸びても閉経年齢は変わらない。
「身体の機能を大切にメンテナンスするにはHRTを利用するのも一つの手」と稲次先生。
2019年のホルモン補充療法ガイドラインの変更により、HRTは更年期症状治療だけではなく、女性の健康寿命維持にも関わるものとなっています。婦人科の先生としっかりお話し健康寿命延伸に役立てるのも良いかもしれません。